Akiba2GO!

【オーバークロック研究室】Pentium 4をガス冷でオーバークロック(その1)


2002年11月25日

 前回のテストでは、水冷キットを使ってオーバークロックマシンを動作させてみた。それは比較的ローコストでありながら、思った以上の成果が得られたと言って良いだろう。ただし、水冷キット以外に特別な冷却装置を併用しなかった関係で基本的な冷却性能は強制空冷の域を脱していない。そこで今回は、コストを度外視して積極的なCPU冷却に取り組んでみた。目標は、CPU温度を室温以下に下げてみる。可能なら零下数℃まで持ち込んで前回に比較してどこまでオーバークロック可能か試してみたい。そのために用意した冷却装置が「Vapochill」である。

●ガス冷却システム「Vapochill」について

今回は、Vapochill 7th generationをベースにPentium4システムつまりSocket478マザーボードを組み込んでオーバークロックテストを実施

 “Vapochill”(バポチル)とは、デンマークのAsetek社が販売しているガス冷却システムで、独自のタワーケース(フルタワーサイズ)に、本来はキャンピングカー用の冷蔵庫やポータブル冷蔵庫に用いられる冷却装置を組み込んだパソコンケースである。Vapochillの冷却装置は、コンプレッサー、コンデンサー、エバポレータ等々から成り立っており、それぞれの装置で冷媒(当然代替フロンのR134a)を圧縮、凝縮、蒸発させて連続的に熱移動を行える仕組みになっている。このうち、吸熱する部分(つまりエバポレータ)が冷蔵庫やエアコンなどと異なり、CPUへダイレクトに固定できる形状に設計されているところが特徴的。そして冷却装置の性能は空冷方式では実現不可能な低い温度を提供してくれるシステムとなっている。単に冷却装置を動作させただけの状態ならエバポレータは、おおよそマイナス20℃まで下がる能力を持つと言うシロモノ。ただ、温度だけを云々するなら、他にも強烈な手段は思い浮かぶが、持続性の面では、実用的かつ経済的に低温を維持できる装置の一つであることに間違いはないだろう。つまり、空冷方式では実現できない室温以下のCPU温度を常用レベルで安定して確保できる冷却装置なのだ。




タワーケースの上部に組み込まれた「Vapochill 7th generation」の冷却装置。写真左端には、12cm角ファンを備えたコンデンサーが配置され、中央やや右に黒い楕円状のコンプレッサーが見える

「Vapochill 7th generation」のエバポレータ部(Socket370/SocketA対応タイプ)。空冷のヒートシンクや水冷の水枕に該当する部分で、さしあたって「ガス枕」と呼べば分かりやすいだろうか。このガス枕とコンプレッサー間は、ジャバラ状の管で接続されているのである程度の曲げに対する融通はきく

コンプレッサーから突き出たパイプから冷媒回路とのアクセスを行うが、Vapochill 7th generationではロウ付けで封印されている。上級者には不満かも知れないが冷媒が漏れる可能性が低い分、安全性は高い

 本来、このようなガス冷装置は、ごく一部のオーバークロックマニア(特に冷却マニア)が除湿器や冷風機などを改造して実用していた。身近なところではAkiba2GO!のコラムで森本琢司氏が果敢にチャレンジなさっておられたが、内容を読むと専門的な知識だけでなく、特殊な工具類や部材を揃える必要性があり、誰もがおいそれと手中に納められるテクノロジーではなかった。ましてや大気中に放出すると地球環境に悪影響を及ぼす媒体(フロンガスなど)を扱う関係上、理にかなった回収方法を用意するとなると個人ではなかなか難しい問題も加わってくる。

 このような背景をふまえて再考すれば、Vapochillの存在は有意義であり、特別な専門知識や工具、部材、設備などを必要としないで高度なテクノロジーをゲットできるのだから有難い。また、現在の最新バージョンとなる“Vapochill 7th generation”では、間違っても冷媒を放出できないように冷媒順路はロウ付けで封印されており、環境面と装置の保全を確保している。ただ、残念な事にVapochill 7th generationの入手性に問題があるかも知れない。現時点では、国内に扱うショップが少なくて簡単に入手できないようだ。場合によっては「個人輸入」とうい手段を覚悟しなければならないだろう。



●“Chillcontrol”の仕様

Vapochill 7th generationに装備されている“Chillcontrol”。本体正面にエバポレータの温度をデジタルで表示する。また、その温度を元にパソコンの電源を操作する機能も備えている

 Vapochill 7th generationには、冷却装置の他に“Chillcontrol”と呼ばれる制御装置が標準で装備されている。一瞬、その働きを誤解した筆者であるが、このChillcontrolは、コンプレッサーなどの冷却装置を直接制御する目的で機能しているわけではなさそうだ(それは、別のユニットがコンプレッサーに装備されている)。調べてみると、どうやら次のようになっている。このChillcontrolで一番目立っているデジタル温度計はケース正面から、冷却装置のエバポレータ温度をいつでも読みとれる仕様になっていて、その温度を拠り所にパソコン(マザーボード)のON/OFFを制御するとのことである。具体的に説明すると、次のような条件で動作するスイッチが2回路セットされている。

(1)エバポレータ温度が設定された温度以下であれば常にスイッチをONにする回路
(2)エバポレータ温度が設定された温度以上であれば常にスイッチをONにする回路



“Chillcontrol”のターミナル部。パソコンを制御するスイッチを2回路備えている。その他は、電源入力と温度センサーの接続端子が並んでいる

この2回路のうち、Vapochillは(2)の回路を使ってパソコンシステムを制御している。つまり、(2)のスイッチ回路をマザーボードのRESET端子に接続して設定温度に到達するまで導通を保持するわけだ。そうすれば、CPU(エバポレータ)が設定温度に下がるまで起動しないということになる。ただし、これは、見かけ上であってマザーボードにはPOWER-SWを押した時点で通電されている点に注意しなければならないだろう。例えば、その状況下でメモリやカードの抜き差しは禁物である。なお、スイッチがターンする設定温度は自在に選択可能なので心配はない((1)と(2)は個別にセット可能)。ただ、その設定温度がパソコンシステムの起動開始温度であると同時に緊急停止温度でもあることを考慮して数値を決定することになりそうだ。ちなみに、(1)の回路を追加利用するなら、もう一歩進んだシーケンスが実行できるだろう(ただし、実践するためにはパソコンシステムと冷却装置のそれぞれに専用の電源ユニットが必要)。つまり、冷却装置に専用の電源を接続することで単独動作が実現しパソコンシステムと無縁のCPU冷却が可能になる。そして(1)の回路にパソコンシステム用の電源スイッチ回路を接続すれば、エバポレータ温度が設定温度に到達するまでパソコンシステムを通電しない状態で待機させることが可能になる(到達すれば、パソコンシステムの電源がONになる)。(2)の回路は、前述の通り、RESET-SWへ接続して設定温度以上にエバポレータ温度が上昇した場合に緊急停止を実行するようにセットする。すなわち、パソコンシステムの起動開始温度と緊急停止温度に差を与えることが可能になり、例えばマイナス15℃でパソコンシステムを起動させ、プラス5℃までリセットしないという条件も作り出せるのだ。





●Socket478アタッチメントの作成とエバポレータの装着状況

Socket478システムを動作させる関係でエバポレータを固定するアタッチメントを自作してみた
エバポレータそのものは、断熱材やプレッシャースプリングと共にプラスチックハウジングで覆われており、リテンションクリップをマザーボード側へ押さえ込めば、その作用でプレッシャースプリングがエバポレータをCPUへ強く密着する仕組みになっている

 今回は、こちらのレポートで紹介されたバージョンのVapochill 7th generation(Socket370、SocketAに対応)をベースにPentium 4システムつまりSocket478マザーボードを組み込んでオーバークロックテストを実施する運びとなった。その際には、エバポレータとCPUを密着させるアタッチメントをSocket478対応に組み替える必要がある。これには「Asetek社から純正の追加キットが用意されている」との情報を編集部から得た。参考のために同社のWebサイトでそのキット内容を確認してみると、結露対策用のヒーターや断熱材の他に金属パイプのような金具を含めてサーマルコンパウンド等の小物を揃えたセットのようだ。その中で結露対策用のヒーターは別にして、アタッチメント金具なら、なんとか自作できそうに思えたので試しに制作してみることにした。要は、マザーボード側のリテンション機構に設けられているクリップ固定用の穴に金属製の丸棒を両端へ通してエバポレータのリテンションクリップと連結すれば巧く装着できそうだ。

そこで、用意する材料だが、直径6mm(鉄製)の丸棒と太さ4mmで長さ40mmのスクリューをホームセンターで調達してきた。加工は、丸棒を90mmの長さに2本切り出して、端から45mmの位置に4mmのタップ穴を立てただけの簡単なものである。ただ、この作業を安全・確実に完了させるとなると、ボール盤やバイスなどの設備が必要になるのでユーザーの条件次第では、純正キットを購入する方が無難かも知れない。なお、エバポレータをCPUへ密着させる作業に至っては、次の順で試してみた。

まず、エバポレータに組み付けられた元の金具を取り外して、リテンションクリップのみ残す。そしてCPUへエバポレータを押しつけながら、先の加工した丸棒に対してリテンションクリップの両サイドから4×40mmのスクリューでねじ込んで係留する。ここで注意する点として両方のスクリューを徐々に締め込むようにする。決して片側だけを一気に締め込まないことだ。また、CPUに対してエバポレータが正しく密着しているかどうか、角度などを確かめながらスクリューの締め込み具合を決定する。これには、エバポレータを何度か装着してみて、エバポレータの傾きや密着度をスクリューの締め込み加減で調節できるコツを体得する必要性があるだろう。なぜなら、エバポレータは、コンプレッサーからジャバラ状の管で接続されていて、ある程度の曲げに対する融通はきくものの、元に戻ろうとする応力は少なからず分布している。したがってエバポレータをCPUに対して直角に正しく密着させるために、配管を強引に湾曲させる関係からその応力に応じた微妙な力配分が必要なのである。他の注意点としては、マザーボード上のリテンション機構が頑丈に取り付けられている事を確認した方が良さそうだ。もし、運用中に外れたりするとCPUは致命的な打撃を被るだろう。




CPU温度を実測可能にした環境から試験的に冷却装置をスタートさせてエバポレータの密着度を調べてみた。エバポレータ温度はマイナス16℃まで降下し、CPU温度はマイナス11.7℃となった。可能ならもう少し温度差を縮めたいところだ


 さて、エバポレータとCPUの密着度については、冷却運転時においてエバポレータの温度とCPUの温度差が少ないほど「密着度が高い」と考えるのが自然だろう。現状でエバポレータの温度は、Chillcontrolによってリアルタイムの実測表示が可能であるが、CPU温度を知るとなると別途温度計を用意してCPUへ温度センサーをセットする必要性がある。 テストマシンには、マイナス19.9℃まで測定可能なデジタル温度計を用意。そして、CPUのヒートスプレッダーに対してできるだけ温度センサーを密着させて温度を監視した。その後にエバポレータをCPUへ密着して試験的に冷却運転を試みたところ、Chillcontrolはマイナス16℃を示しCPUの温度はマイナス11.7℃と、やや温度差は認められたものの「まず、まず」と言った感触を得られた。ただ、このテストでは、マザーボードに通電しておらずCPUは全く動作していない状態である。つまり、冷却装置にとっては、いわゆる無負荷状態なのである。その条件で得られたエバポレータの最も低い温度がマイナス16℃だという結果は、実のところ少々期待はずれであった(せめて前出のマイナス20℃に限りなく近づいて欲しかった)。

●「Pentium 4マシンのガス冷に挑戦!(その2)」に向けて

 現在、先の冷却テストで「エバポレータの最も低い温度がマイナス16℃」だという結果から、もう少し下がらないものかと冷却装置を中心に調査中である。どうにもならないかも知れないが、気になる点もあるので調べる時間をいただきたい。また、有効な結露対策も未解決である。どうやら何軒か、ホームセンターのハシゴを覚悟しなければならないようだ(対策の「アテ」はあるけれどそのアイテムを取扱っているかが問題)。

◎注意
メーカーが定めた周波数以上の動作は、CPUやメモリを含めてその他の関連機器を破損したり、寿命を縮める可能性があります。また、各電圧を高く設定する場合においても同様のリスクがあり、それらの結果によるいかなる損害についても、筆者およびAkiba2GO!編集部、製造メーカー、販売店はその責を負いません。オーバークロック設定・改造・BIOSの書き替え等は自己の責任において行って下さい。なお、この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびAkiba2GO!編集部が保証するものではありません。この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできませんので、あらかじめご了承ください。

【筆者プロフィール】鈴池 和久氏。オーバークロック歴は1995年登場のTritonチップセットの頃から。マザーボードの回路解析やハンダごてを使ってオーバークロック改造を施すのが得意。1998年出版の「パソコン改造スーパーテクニック」を初めPC改造に関する著書を複数執筆。現在は当ページのオーバークロック研究室コラム記事を執筆中。ハンドル名は「KAZ’」。1957年生まれ大阪府在住。




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