【オーバークロック研究室】Athlon XPでオーバークロック(前編)〜まずは倍率可変CPUに改造する〜
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2001年11月30日
Palominoコアを搭載したデスクトップPC向けの「Athlon XP」がアキバに出現して早くも8週間が過ぎようとしているが、こちらのレポートでは今月初旬にAthlon XPシリーズ最高性能品となるAthlon XP 1900+がPCショップの店頭に並んだことをお伝えしている。この新風は、指をくわえて成り行きを静観していた当オーバークロック研究室にも届けられた。その姿は従来のセラミックパッケージからプラスチックパッケージに変更され、一見するだけでXPだとわかる色合いの違いやパッケージ表面に実装されていたチップパーツが、その場所をピンサイドに移してスッキリしたところが印象的だ。また、これまでの動作周波数表記を“モデルナンバー”による処理性能表記に改めたようで、実クロックに慣れ親しんでいる筆者としてはなんとも複雑な心境(複雑と言うか原稿を執筆する上で実クロック併記となると繁雑になる)だが、倍率変更の重要なカギになるL1ブリッジは継承されているようでコラム記事のページ追加が安泰であるとともに、ある意味、楽しめるプロセッサと言うことに変わりはないようだ。そこで今回は、このAthlon XPは倍率変更が可能なのか、そして可能ならどこまでオーバークロックできるかを中心に調査&チャレンジしたレポートをお届けしよう。なお、本文に入る前に上述の“モデルナンバー”を整理しておいたので文中のクロック表記の参考にしてほしい。
| モデルナンバー表記 |
実クロック |
FSBクロック |
倍率 |
| Athlon XP 1500+ |
1.33GHz |
133.3MHz |
10 |
| Athlon XP 1600+ |
1.4GHz |
133.3MHz |
10.5 |
| Athlon XP 1700+ |
1.47GHz |
133.3MHz |
11 |
| Athlon XP 1800+ |
1.53GHz |
133.3MHz |
11.5 |
| Athlon XP 1900+ |
1.6GHz |
133.3MHz |
12 |
| Athlon XP 2000+(仮定) |
1.67GHz |
133.3MHz |
12.5 |
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“モデルナンバー”についてはこちらの記事を参照のこと。
CPUの価格についてはこちらを参照。
●Athlon XPのL1ブリッジについて
従来、4極であったAthlonのL1ブリッジは、先行リリースされたAthlon MPと同じくAthlon XPになってひとつ増えている。おそらく13倍速以上のパラメータ設定に対応するための処置と推察できるのだが、手にしたAthlon XP 1500+(実クロック1.33GHz)のL1ブリッジを観察してみると、ご丁寧に5本とも切断されているようだ。他のブリッジも含めてルーペで拡大して見るとL3やL4の一部のジャンパで見られるように、もともとパッケージの積層内部で全て接続されていて倍率やコア電圧など仕様に応じたパラメータ通りに表面から焼き切られたものと推察できる(ちなみに従来のAthlonではパッケージ表面上にプリントされていてカットされた部分をつなぐテクニックが色々とあみ出されただけでなく、サード・ベンダーからジャンパ・シールなるものが配布されるなど、L1ブリッジにまつわる話題は記憶に新しい)。
こんな緻密な作業はプロセッサを作り出せるメーカーにしてみればオチャノコサイサイといったところだろうか?と感心している場合ではない。切断されたブリッジを接続するための鉛筆HB作戦や導電ペイント攻撃もこれでは全く歯が立たない。というのも従来ならパッケージ表面上で切断されたラインのごく小さな溝を鉛粉などの導電物質でつなぐだけで良かったワケだが、今回はそのラインが残っていないだけでなくブリッジが切断されたパッケージ表面の該当部分は凹みのある谷となっている。改めてルーペで見るとその凹みは、まるで絶壁に挟まれた渓谷のように見えた。さらにその谷底はどうやらシールドらしき銅箔が焼け残っており、周辺にある切断されたジャンパ部分の谷底と電気的につながっている疑いが濃い。したがってこの谷間を導電ペイントで埋めてしてしまうと倍率操作どころの話ではなくなる可能性を強く感じた。ただ、唯一の救いはパッケージ表面に残るブリッジの両端の小さなドットで、テスターを使った導通チェックだと他のブリッジにしっかりと接続されていたことだ。
●切断されたL1ブリッジの接続にチャレンジ
少なくともこの切断されたL1ブリッジは何らかの方法で接続しないと倍率操作は実現不可能である。つなぐための手がかりは、パッケージ表面に残された小さなドットしかない。ここは無謀かも知れないが、この小さなドット間をリード線で接続してみることにした。まさに谷間へ架ける決死のブリッジ作りである(失敗するとAthlon XPの生死に関わる)。とは言うもののテレビで見かけるレポート番組の1シーンに登場するワイヤーボンダー(ICチップ製造においてチップ内部のコアとピン・リード間というミクロン単位の区間を銅やアルミの極細線で配線するロボットマシン)があるわけではなく、手元に見つけられるのは、近頃、眼精疲労の激しい老眼気味の筆者の肉眼と少々ガタつきはじめた長年愛用のハンダごてだけである。早速、ハンダごてを温めながらL1ブリッジ作戦を練った。まず、予測できる難点として…
(1)ドット間を接続する線は、小さなドットに対してそれなりに細くそしてしなやかな銅線が好ましいが手頃な材料が思い浮かばない。
(2)ターゲットのドットは、先ほどテスターのリード棒をあてた時に感じた印象からパッケージ表面に対していくらか凹んでいる。こう言う場合は、ドットに対して予めハンダメッキを施そうとしてもハンダが弾いてしまってうまくのらない。
(3)成功したとしても鉛筆HB作戦や導電ペイント攻撃のように比較的手軽な方法とは言えず面白みに欠ける。
と、いくつか考えられたが(1)の材料としては手元にあった比較的細い電線をいくつか選んで被覆をはがしてみた。今回の使用目的では単線ではなくて細い銅線を数本束ねてある心線のうちの一本が使えないかと考えたのである。候補にあがった銅線の太さは0.10mmと0.14mmで、試しにL1ブリッジのジャンパ・ポイントへあてがってみると、丁度、ドットが隠れてしまう太さだった。理想を言えばもっと細い銅線が好ましいが、とりあえず一番細い0.1mmの銅線を使うことにする。
次に(2)の問題だが、従来のAthlon-1GHzでL1ブリッジを過去にハンダづけした経験がある。その時もブリッジにハンダが馴染まなくてなかなかハンダメッキができなかったが、今回はその教訓もあってチョットしたアイデアを試してみる。
(3)は、ハンダづけではなくてもっと手軽で確実な方法が思い浮かべば良いのだが、それは今後の課題。今回は、ハンダづけによるジャンパ作業で先を急ぐことにする。ただ、L1ブリッジの切断後に残った凹みを何らかの絶縁体で埋めてしまい、その上から導電ペイントでドット間にジャンパ・ラインを書けたなら何とかなりそうな雰囲気だが、何れにしても実際の作業は困難を極めるだろう。
●L1ブリッジ作戦開始!
さて、ハンダづけ作業は思いのほか難行した。なんと言っても相手が小さくて作業状況が肉眼ではハッキリと見えないからだ(筆者の視力にも問題があるのかも知れないが)。ほとんどがカンに頼った作業であったと言っても過言ではない。最初の行程では思った通り、ドットにあらかじめハンダメッキを施そうとしても、ドットはパッケージ表面から若干凹んでおりハンダが弾いてすんなり馴染もうとしない。
そこで先にも述べたようにチョットしたアイデアを試してみた。それは、(1)で用意した銅線をドットに対して垂直に立て、ハンダごてのこて先に溜めた多めのハンダと共に銅線の横から加熱する方法である。つまり細い銅線をハンダごてのこて先に見立ててドットを加熱し毛細管現象を応用してハンダを流し込む作戦だ。結果は上々でハンダごてを直接ドットにあてがうより効率は良さそうだ。コツはハンダがよく馴染むように液体フラックスを併用する。ハンダの温度が下がった頃合いを見計らってもう一度加熱して銅線を抜き取り、ドットにハンダメッキが施せたら残りのドットにも同じ方法で順次ハンダメッキを施して第一行程は完了となる。ただ注意する点はドットのすぐ横にあるジャンパ切断後の凹みへ可能な限りハンダを流し込まないことであり、テーピングをして防御するか、もしも流れ込んだ時は速やかに排除することだ。もう一点、最も注意しなければならない点としてドットにハンダづけし終えた銅線をむやみに曲げたりしないことである。なぜならばパッケージ表面に見えているドットの厚みはとても薄くて剥がれやすい。つまり、その表面積のままで積層内部に深く埋め込まれているのではなく、それこそ肉眼では判断できないほど細い信号線でパッケージ内部に接続されているものと思われる。したがってドットに対して無用な力をかけると、いとも簡単に剥がれる懸念が強い。最悪、ドットを失ってしまうと倍率操作は諦めざるを得ない結果となる。
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当初ジャンパの材料として考えた0.1mmの銅線と袋編みされたハンダ吸い取りワイヤーをほぐした一本の銅線の違い |
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ハンダ吸い取りワイヤーを構成する一本の銅線は太さ0.04mmで髪一本の平均値0.07mmより細い |
切断されたL1ブリッジの各ドット10カ所に何とかハンダメッキを施せた。いよいよそのドット間に銅線を接続する行程に取りかかる。ところが高々2mmほどではあるが両方のドット区間に渡した太さ0.1mmの細い銅線を加熱するとハンダが銅線に集中するばかりでドットの方へ思った通りにハンダが流れていかない。やはり現状だともっと細いしなやかな銅線が必要だ。「さらに細い銅線なんて入手困難だ」と筆者の脳裏が先入観に支配されそうになったその時、ふとハンダ吸い取りワイヤーが目にとまった。「あ!あった。これは絶対に細いハズだ」。袋編みされたハンダ吸い取りワイヤーをほぐして一本の銅線の太さを測定してみると0.04mmである。しかも十分にしなやかで今回の目的には好都合だ。先ほどと同じようにドット間へあてがってルーペで確認してみると、ドットが隠れることもなく均等に加熱できそうな様子がうかがえた。早速、ハンダごてで加熱してみると今度はドットにもハンダが流れて概ね良好な感触を得られた。ただルーペで見ると決して納得できる仕上がりとは言えないが、手元のツールと筆者の手作業ではこれが限界と言ったところである。とにかく「電気的に接続する事が最大の目的」と自分に言い聞かせて5本のジャンパ作業を完了させた。
※ハンダ吸い取りワイヤーとは極細の銅線を袋編み状にして予めフラックスが塗布してあるハンダづけ作業に欠かせないツールのひとつで、ハンダづけ作業の際に発生した無用なハンダを吸い取ったり、基板にハンダづけされた電子デバイスを摘出する際に使用する。オーバークロックに関わる改造では、マザーボードのPLLオシレータ回路に実装された水晶振動子を摘出した後、スルーホール内の埋まったハンダを吸い取る際に重宝する。
●CPUは加熱作業に耐えられたか?果たして倍率操作は?
苦難の末、ようやくL1ブリッジに5本のジャンパ作業は完了した。念のためにCPUのAM36、AL27、AN25、AL25、AJ27ピンと、それぞれの行き先となるL3、L4、L10ブリッジ間(詳細は前ページの結線図を参照)の導通状況をチェックする。結果は5本のラインとも「導通あり」で切断されていたジャンパが接続できたことを意味した。この段階ではとりあえず合格だが、これまでの加熱作業にCPUが耐えて正しく起動するのだろうか。また、果たして倍率操作は手中に納められるのだろうか。
少々心配な気持ちを抱きつつマザーボードにL1ブリッジをクローズしたAthlon XP 1500+をセットした(ちなみに起動試験にはEPoX製マザーボード「EP-8KHA+」を選んだ)。EP-8KHA+は倍率操作に関わるスイッチやジャンパ・ポストの類はマザーボード上に存在しないが、英文のマニュアルを見るとBIOSセットアップから操作ができそうな記述を発見した。 まずはデフォルトの設定で正常にPOSTするかが第一の関門で、不正なPOSTだとこれまで苦労した作業が水の泡となるだけでなく根本的にこの企画を練り直す羽目に陥る。そんな心配をよそに8KHA+のPOST表示は順調に進んだ。しばらくして“Athlon XP 1500+”とモニターに表示されプロセッサを正しく認識したと同時にIDEデバイスをスキャンしている。OSの立ち上がりまで確認していないが、一応Athlon XPはこれまでのジャンパ作業で実施したハンダづけに対して「耐えられた」と言って良いだろう。
そして次はいよいよ倍率を操作してみる。「Bootするデバイスが接続されていないぞ」と待機中のシステムを再起動させBIOSセットアップを呼び出した(残念ながら8KHA+に音声、特にアイドルの声で注意を促してくれる機能は無かった)。設定は、「Frequency/Voltage Control」ページの「CPU Ratio」項目を変更する。カーソルを合わせてEnterキーを押すと6倍速から12倍速までは0.5倍速ステップで選択が可能だ。ただ、12倍速からは13、14、15倍速になっているところが少々解せない。それは、後回しにして「こういう場合は下位へ」と8倍速をセットした。これで起動してくれるならば倍率操作の改造は半分成功だ
。
結果は、写真で示した通り、流通していないハズの“Athlon XP 1066MHz”とモニターに表示された。しかも(133×8)と設定通りの数値が倍率を確実に操作できたことを象徴している。「では、残り半分のテストだ!」とばかりに、今度は、10.5倍速をセットした。システムは期待に応えるかのようにPOSTを順調に進め、見事“Athlon XP 1600+”として起動した。「倍率操作に成功だ!」。あとはどこまでこの“Athlon XP 1500+”がオーバークロックできるのか。とても楽しみになってきた。詳細は次回の記事に続けるとしてホンの少しだけ予告の画像を示しこの原稿をアップしておこう。
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これもリリースはされていないハズの“Athlon XP 2000+”で12.5倍速動作に成功している。が…詳細は次回の記事で明らかに…(画面はH.Oda!氏のWCPUIDによる) |
◎注意
メーカーが定めた周波数以上の動作は、CPUやメモリを含めてその他の関連機器を破損したり、寿命を縮める可能性があります。また、各電圧を高く設定する場合においても同様のリスクがあり、それらの結果によるいかなる損害についても、筆者およびデジタルバイヤー編集部、製造メーカー、販売店はその責を負いません。オーバークロック設定・改造・BIOSの書き替え等は自己の責任において行って下さい。なお、この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびデジタルバイヤー編集部が保証するものではありません。この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできませんので、あらかじめご了承ください。
【筆者プロフィール】鈴池 和久氏。オーバークロック歴は1995年登場のTritonチップセットの頃から。マザーボードの回路解析やハンダごてを使ってオーバークロック改造を施すのが得意。1998年出版の「パソコン改造スーパーテクニック」を初めPC改造に関する著書を複数執筆。現在は当ページのオーバークロック研究室コラム記事を執筆中。ハンドル名は「KAZ’」。1957年生まれ大阪府在住。
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