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【新連載・秋葉原迷宮探検レポート】ケーブル専門店、真空管専門店を直撃


2002年3月4日

 世界的にその名を知られる電気街「秋葉原」。我々PCユーザーにとっては、言わずと知れたPCパーツショップが集中する街である。だが、JR秋葉原駅周辺の裏路地に一歩足を踏み入れば、コンピュータよりも長い歴史と伝統を受け継ぐ老舗の電子部品店に遭遇する。一般には馴染みの薄いプロ&マニア御用達のコアな電子部品店に皆様をご案内していきたい。

■ラジオの街「秋葉原」

ラジオストアー、ラジオセンターの入り口。一見3店舗くらいに見えるが、中には数十店舗の専門店が同居する

 秋葉原電気街の歴史の中でコンピュータ関連パーツの存在はごく新しいものにすぎない。人間の脳にたとえるならば「大脳新皮質」のような存在だ。事実、秋葉原電気街の歴史はラジオとともに歩んできたと言っても過言ではない。筆者のようなハナタレ小僧が生まれてすらいない昭和20年代、ラジオは高級品であり、最も身近なハイテク機器でもあった。JR秋葉原駅電気街口周辺には、戦後の混乱期以前から自作ラジオパーツの供給源である、由緒正しい電子部品専門店の集合体が存在する。この専門店の集団は、ラジオストアー、ラジオセンター、電波会館(この3つのビルは一見境界がないので一集団に見える)、ラジオデパートと呼ばれる。現代の感覚では何とも古めかしく思える名称ではあるが、この呼び名が付いた当時はラジオがある種の憧れを伴った電気製品であったことは想像に難くない。ラジオ関係のパーツを扱う店舗が集中していたため、このような呼び名がつくのは自然の成行きであろう。




ラジオセンター内だけで47店舗が入っている。もちろんPCパーツショップもあり

 この専門店街の「専門」度は半端なものではなく、リレースイッチ専門店や抵抗専門店など、ごく限られたカテゴリーのパーツを狭く深く取り扱う。初めてこの界隈に足を踏み入れた人ならば、1坪〜2坪ほどの面積しかない、強力に専門色の濃い電子部品店が、数十店舗もひしめき合う独特の雰囲気に圧倒されるに違いない。現在のこれらの店舗は当然現代でも最先端のパーツを扱っているわけで、戦後さながらの店構えに最新の電子部品がズラリと並ぶ風景はシュールでさえある。これほど個性的で魅力的な場所に足を踏み入れずして秋葉原の真の姿を知るコトはできないだろう。この桃源郷を探索するのにあてなど要らない。歩き回るうちに貴方の気分は物欲MAX状態必至なのだ。



■ケーブル専門店「九州電気」

 JR秋葉原駅を降りて中央通りに向かうと総武線ガード下の交叉点にぶつかる。PCパーツがお目当ての諸氏は、歩行者用信号が変わるのももどかしく一目散に中央通りを突っ切って行くに違いない。だが、この信号を渡る前に後ろを振り返ってみて欲しい。そこには秋葉原の別天地、ラジオストアー、ラジオセンターの入り口が貴方を待ち受けている。

中央通りに面したケーブル専門店「九州電気」。通りがかりに覗いたことのある方も多いのでは?

 入り口付近右手に見えるのが今回ご案内する九州電気だ。ラジオストアー内の店舗では比較的規模の大きい同店は各種ケーブルを専門に取り扱っている。店の外から中まで、有効面積の全てを各種ケーブルが埋め尽くしているため、一見してケーブル専門店であることがわかる。おそらく秋葉原以外では成立しえない形態の店舗であろう。早速アポ無し突撃取材を敢行する。なるべく営業の邪魔にならぬよう平日昼間を選んでお邪魔させていただいたが、次々にお客さんがやって来るので取材は困難を極める。20分程タイミングを計り、ようやく店員の叔父様から話を聞かせていただくことができた。

――いつごろから営業されているのですか?

「うーん。焼け野原の頃からだね。この辺の店はみんな昔からやってるよ。私はそんな前のコトは判んないけど、関東大震災の時からやってるところもあるからね。そこの(総武線の)橋脚あるでしょ。あれと一緒に戦後の焼け野原からずっとだよ。あれはJRのだから一切いじっちゃダメなんだよね。だからずっと昔のまんまだよ」




ラジオセンターの歴史とともにあるという総武線の橋脚(壁のすぐ裏側が橋脚)

――良く売れるものは何ですか?

「これだね。パソコンの電源コード。まあ、パソコン用って決まってるワケじゃないけど。0.5mとか10mとか普通と違うのが売れるね。長いのって普通売ってないでしょ。ウチは特注で作るから。1000mから作れるよ。もとのケーブルが1000mで、5mのだったら200本とか。こういうのも(コネクタ部分)全部指定できるから好きなのが作れるわけよ。7mだって、50mだって好きなのが作れるの。それで、まとめて作れば安いしね。うちはその辺の店と違ってバーコードでピッ、てわけじゃないからね」


小売りされている大量のケーブル。取り扱いのケーブル種類は、何と4000種類とのこと

――お客さんはどんな人が多いですか?

「判んないねぇ。普通の人だろうね。あと会社の偉い人とか。小ロットの半試作品みたいのは会社だろうね」

――取り扱っているケーブルは全部で何種類くらいあるのですか?

「4000種類(きっぱり)。だいたい…」


良く売れているという電源コード。ある程度数がまとまればオーダーメイドも可能

――電話で問い合わせとかもありますか?

「あるけどあんまり答えられないね。だって、こんだけあったら(お客さんが)型番なんてわかんないでしょ。だから見て触って選んでほしいのよ。見て触って、舐めて…(以下自主規制)高い電車賃払って来てもらうんだから、見て触ってもらわないとね。見て触って、舐めて…(以下自主規制)」

 こんな具合でかなりフレンドリーにお答え頂いた。お話を伺っている間にも、どんどんお客がやってきて会話が途切れがちになるが、印象的だったのはお客さんとのコミュニケーション。対面接客のため質問がしやすい。それで店員さんもフレンドリーになるのだろう。女性のお客さんはほとんど来ないようで、下ネタ連発なのはご愛嬌。ケーブル業界人らしき人物と話し込んでいて、約20分間待機することになったのには参ったが…。

九州電気株式会社
東京都千代田区外神田1丁目14番2号



■真空管専門店「アムトランス」

出入口は何処に? 実は左のカウンターが可動式でここから出入りするシステムになっているようだ

 先ほどの九州電気脇の入り口から細い通路を入って行くと、中には小さな店舗がズラリと並んでいる。ほとんどの店が究極的に単一カテゴリに特化した品揃えで、一坪ほどの面積をそれぞれ特殊な商品で埋め尽くしている。中でも特に個性的な商品を扱っているのがアムトランス。筆者のような若造は触ったこともない真空管を専門に扱う店だ。店舗スペース前面のショーケースに所狭しと並んでいる真空管には数万円から十数万円の値札がついている。一体この真空管は現代においてどのような用途があるのだろう? 次の突撃取材のターゲットはこのお店に決定だ。




所狭しと積み上げられた真空管。日本製のものもあるが既に生産中止となっている

――これは何に使う真空管なのですか?(我ながら間抜けな質問である)

「これはね、出力管(ショーケースに展示のもの。サイズ大)。で、こっちのが整流管(奥の棚。サイズ小)でこっちが増幅管(向かって左の棚。サイズ中小)。真空管アンプ(オーディオ)に使うんですよ」

――真空管アンプというのは?

「音がいいんだよね。最近のステレオはガサガサっていうか、トゲトゲっていうか。真空管アンプは音がマイルドなの。言ってみれば、癒し系ね、癒し系」


ショーケースに展示された出力管。ステレオ出力のためには2本必要らしい

――出力管というのが高価ですね。

「うん、もちろん。これが命だからね。これが最後の増幅だから。大きいでしょ」

――真空管アンプで聞く音源ソースはなんですか?

「CDでも良いんだけど…やっぱりレコードだね。CDでも良い音なんだけど最近はレコードが流行ってるね。レコードはいい音だよね。癒し系だよね」

――高い真空管は性能が良いのですか?

「性能っていうかね、音がいいんだよねぇ。高いのは高級ブランドなのよ。女性のハンドバックみたいなもんだねぇ。こっちのテレファンケン(ドイツ製)、モラード(イギリス製)、ウエスタンエレクトリック(アメリカ製)とかが高級ブランドだねぇ。最近生産してるのはチェコとかスロバキア、ユーゴスラビア製」


店の横に貼られていた真空管アンプのパンフレット

――アンプには真空管を6個使うんですか?

「いや。回路の作り方で変わるんだけど…。右と左で1個づつ使うからね。普通は3段構成だから6個なんですけどね。うーん、まあ色々、自由だね」

 この店もかなりマニアックそうなお客が次々現れるため、すぐに話は途切れてしまう。回路図とかサンプルの真空管とかを持参したお客さんは非常に長く話し込むため、余裕で10分程待たされる。その間に次のお客が来てしまい、結局1時間ほど待機を余儀なくさせられてしまった。だが、接客中の会話を聞いているとこちらまで興味が湧いてきてしまうから不思議だ。自作真空管アンプの増幅管の予備を買いに来た、年の頃30歳前後と思われる男性は、胃がヨジれそうなほど迷って話が長い。恐るべきことに彼女(らしき人物)と同伴だったのだが、女性のほうは終始無言で一言も発しない(一見してかなり苦痛そうなのはいうまでもない)。

 この店で真空管を睨みつつ棒立ちになるお客さんを観察していると、PCパーツショップでHDDをIBMにするべきか、Seageteにするべきか悩む自分とダブるものがある。想像するに、この真空管アンプも製作するまでの過程自体が楽しみのひとつなのだろう。そして真空管を交換する度、AthlonからAthlon XPにアップグレードしたような期待と喜びが味わえるに違いない。いや、こういったモノが目指すところは音質という実にファジーでアーティスティックなものだ。自分で製作した純アナログ回路の真空管アンプで聞く音楽は、自作PCが生み出す自己陶酔の世界よりも甘美なものであるかも知れない。高品質な真空管の多くは既に生産が終了して10倍ものプレミアがついているという。アナログとデジタル、対極にあるPCと真空管アンプ。だが、そのファンダメンタルな部分は非常に近いと感じるのは筆者だけではないだろう。

アムトランス有限会社 本社
東京都千代田区神田淡路町2丁目10番14号

秋葉原店
東京都千代田区外神田1丁目14番2号 ラジオセンター内



【筆者プロフィール】森本琢司氏。機械設計・加工会社に就職したが、IT成金を夢見てPC関連のベンチャー企業に転職。現在は脱サラして自営。大手メーカーの覆面SEからバカ改造記事執筆まで無節操な営業状態。自称「インチキSE兼コンビニエンスライター」。水冷装置など機械加工を駆使した改造が得意。1970年生まれ神奈川県横浜市在住。




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