2001年10月21日
商品を販売する会社ではマーケティングが命! データは宝物!! これはどんな業種にでも言えることだと思う。だから僕は営業マン時代、常にデータ収集を欠かしていなかった(つもり)。
マーケティングデータの中でも最もわかりやすく、参考になるのがゲームソフト販売本数ランキングなどの資料である。そう、アスキーの関連会社である某エ○ターブレインなども発表しているやつだ。あるとき僕がこのデータを分析していると(つーか眺めてただけだけど)、想像を絶する数字が目に飛び込んできた。
「発売日から1週間の販売本数“352本”」
……なんていう脅威的な数字だ! 全国に少なくとも8000店以上は存在するであろうゲームソフト販売店の中で、352本だ。単純計算で20店につき1本以下したそのソフトは売れていないことになる。超マニアックなアダルトビデオ、いやアダルトVideo-CDでももう少し売れそうな気がする。そもそも一体どうやってそんなエキセントリックなデータがはじき出されたのかも不思議なのだけど、発売元のメーカーが何を思ってそのソフトを発売したのかはもっと謎である。
しかしこの謎はすぐに解けてしまった。なぜならば、その後すぐにわが社でも総販売数が500本を切るソフトが発売になったからだ。今回はそんな、泣く子も黙る「売れないゲーム」が作られる仕組みを紹介しよう!
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平積みされて、大々的に宣伝されているタイトルの裏には、日陰にも入れないタイトルが無数に存在するのだ。※写真はイメージです。実在するショップやメーカーとは関係ありません |
売れるゲームと売れないゲーム
通常、5800円のゲームソフトを自社で販売した場合――ソフトメーカーの“権力”やプラットフォームによっても結構違うので参考までにしてほしいけれども――メーカーの取分はCDのプレス代を除くとだいたい2500円/1本前後。最初に書いたような実売数400本以下のタイトルであれば、出荷数はどんなに多くてもせいぜい1000本くらいだろう。ゲームソフトには返品制度がないので出荷した分はすべて売上げになるものの、それでも1000本では、どんなに多めに見積もっても250万円程度の売上げにしかならない。この金額は、某大手ゲーム誌に2回広告を打てばなくなってしまう金額。これでは間違っても開発費用の回収は不可能である。
一体誰のせいで、こんな赤字100%確定、出血大サービスなソフトが発売されるのか? その原因のひとつは、社内における営業マンの発言力がほとんどなきに等しいことにある……ような気がする。というのも、ゲーム会社の中でゲームを客観的に判断できるのは、広報・宣伝部門や営業の人間と、あとはごくわずかな開発者だけであろうと僕は思っているから。おお、今回は強気だ!
強気ついでに今までの経験から語らせてもらうと、当然ながら開発者は自分の「好きな」、「おもしろい」ゲームを作りたいようだ。まぁ、クリエイターとしてはそりゃそうだろう。しかし、彼らは外部の“一般社会”とは隔絶された特別な空間に生息していることが多いため、彼らの考える「おもしろいゲーム」が、一般社会の「おもしろいゲーム」とは決定的に違う場合が往々としてある……。しかも、何が「売れる」ゲームなのかを考えている人となると、営業の立場から言わせてもらえば、ほとんどいない。
そんな開発者たちの「好きな」「おもしろい」ゲームを持って宣伝マンや営業マンは毎日のように出版社やショップの仕入担当者のところに出向いていって、コテンパンにやっつけられているのだ。決して開発者をバカにするわけではないけど、営業先で第三者の厳しい意見を拝聴することがある分だけ、その“商品”が売れるのか売れないのかは、作ってる本人たちよりも外回りの部門の人間のほうがよくわかっていて当たり前なのだ。
しかも、ある程度ちゃんとした営業マンなら、キワモノ狙いの特殊なタイトルを除くと、企画が上がった段階で売れないものははっきりとわかっている場合が多い。しかし、その時点で開発部門に対して意見を言えるゲーム会社の営業マンが、この業界にどれだけいるだろう? このような開発者重視の誤った経営方針により、売れないソフトは次々と開発されていく、というわけだ。
以前、僕は上司からこんなことを言われたことがある。
上司「今回完成したこのソフトの目標売上本数は10万本だ」
僕「企画があがった時から言ってましたけど、この内容では1万本も売れないと思いますが……」
上司「そんなことは知っている。しかし経費から逆算すると10万本売れないと経営がヤバイので、四の五の言わずに売ってこい」
僕「は、はい……」
今になって振り返ると、どうやらこの会社は“マーケティング”という言葉の意味を知らなかったようだ。なお、この指示があってから約1年後、本当にこの会社は潰れた。上司は、間違ったことは言ってなかったわけである……。
実録:実売500本以下のゲームが世に出るまで
さて、おもしろくないゲームを持たされ、夢の販売本数10万本を目標に営業を開始した僕だが、結果は予想どおり散々だった。基本的に嘘はあまりつけない性格なので(営業に向いてないんだろうか?)、見るからにヤバそうなゲームを無責任に「おもしろいっすよ最高っすよ!」とは言えなかった。僕のことはユーザー重視の、責任感ある営業マンと思ってほしい(絶対向いてないな……)。
このように売れないゲームによってダメージを受け、ライフゲージが減ってくると、会社は恐怖の呪文を唱えるようになる。“経費削減”である。
この4文字熟語を簡単に言い換えると、つまりは「開発期間を短くして、お金をかけずにたくさんソフトを作ってたくさん売ろう!」ということだ。こうなったらもう地獄である。そんなことはそうそう上手くいくわけがなく、このような末期状態に陥った場合、もうその会社は死んだも同然と言えるだろう。
僕はこのような末期状態の会社が作った、ろくでもないソフトを何本か営業したことがある。マスターアップしたばかりのそんなダメダメソフトを持って、大阪の某ゲームチェーン店本部に営業に行った時のこと。
仕入担当者(笑顔)「今回のタイトルは期待しているんですよ。さっそく見せてください」
僕「(ヤ、ヤバ。この人は一体何を誤解しているのだろうか?)……ありがとうございます!!」
期待してくれているお客様に対して申し訳がない気持ちでいっぱいになるが、見せないわけにもいかない。僕はおもむろに営業用のプレイステーションを取りだし、プレイを始めた。
仕入担当者(ちょっと呆然。しかしすぐに笑顔を取り戻す)「これはまだ開発中ですよね?> この辺のポリゴンとかまだまだですよねー。背景とかもまだ仮の絵みたいだし……(※1)」
※1 このソフトはマスターアップ(=完成)してます。なので、その担当者が指摘する粗いポリゴンも、試作段階のような背景も全て完成品です。どこも仮じゃないです。
仕入担当者(ちょっと真剣な表情)「これは開発は何%くらい終わってるんですか?」
僕(満面の笑みで)「ご、ごごごごごじゅっぱーせんとでございますぅ」
仕入担当者(笑顔に戻る)「あはは、それじゃしょうがないですねー」
結局、このうそも数日後には真相がバレることになる。それ以降、僕はこの担当者の笑顔を見ることはなかった。本当にごめんなさい。
さて、こんな中途半端な営業を日本各地で行った末、最終的な受注数は1200本。最初に発注書を見たときは桁を間違えたのかと思ったほどだ。発注数がこれだけであれば、当然予定していた宣伝、広告費用はカット! そうなれば、それ以降そのタイトルがメディアに露出することはなくなるわけで、露出がなければ、売れるわけもなし。第一それ以前の問題として、そもそもゲームの内容がろくでもないのだからどうにもならない。
こうしたプロセスを経て、無事に実売数500本以下のソフトは誕生するのであった。
めでたしめでたし……?
ここに書いたことは、あくまでも筆者の体験がもとになっています。すべてのゲーム会社に当てはまるわけではありません。
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【筆者プロフィール】高田哲弘氏。都内某大学を卒業後、とある中堅ゲーム会社に誤って入社し、営業部に配属されて過酷な日々を過ごす。その2年後には早くも会社の将来に絶望を感じ、就職活動を開始。別のゲーム会社にて採用され、また誤って入社してしまう。そしてそこでも会社の将来に絶望を感じたが、時すでに遅く、会社が倒産するという事態を迎えるハメに。そして現在、なんの因果かまたゲーム業界に近い会社に勤務している。しかしやはり過酷具合は変わらず、現在は長期就職活動中。
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